「耳栓をして寝ている」――東京オーバーツーリズムの実態と宿泊税3%への転換

観光庁・JNTO・東京都主税局等の公式統計・発表をもとにまとめた編集記事です。  ·  NETOKYO Editorial

「4,000万人突破」は、実はもう去年のニュースだ。訪日外国人数が年間4,268万3,600人に達したのは2025年のこと。前年比15.8%増、3年連続で消費額約9.5兆円という過去最高を記録した。では2026年はどうか――実はここに、数字と体感のギャップという、もっと面白い物語が隠れている。

4,000万人超えは去年の話、今年は失速中

観光庁・JNTOの発表によれば、2025年の訪日外客数は4,268万3,600人(前年比+15.8%)で過去最高を更新した。国籍別では韓国945.96万人、中国909.63万人、台湾676.34万人、米国330.68万人と続き、豪州が105.83万人で初めて100万人市場に達している。伸び率で目を引くのはロシアの+96.3%(19.49万人)と中東地域の+54.7%(25.72万人)だ。

ところが2026年に入ると様相が変わる。1〜4月の累計は1,437.58万人で前年同期比マイナス0.5%と、累計ベースで前年割れに転落した。政府は2030年に6,000万人・消費額15兆円という目標を掲げているが、2026年前半の勢いはむしろ足踏み状態にある。

中国人観光客、4カ月連続40%超減という急落

この失速の最大の要因は中国からの訪日客の急減だ。JNTOの月次速報によれば、2026年4月の中国人訪日客は33.07万人で前年比マイナス56.8%。1〜3月累計でも107.35万人(前年同期比マイナス54.6%)と、4カ月連続で40%を超える減少が続いている。一方で韓国(4月87.86万人、+21.7%)や台湾(同64.35万人、+19.7%)は好調で、「中国減・韓国台湾増」という国籍別の明暗がくっきり分かれている。

東京の"体感"混雑がそれでも緩和しないのは、団体旅行から個人旅行への移行、スマートフォンによる事前予約の普及、SNS発トレンドへの一極集中という、観光客数そのものとは別の構造変化が進んでいるためだ。

東京の観光地の人混み
訪日客数全体は伸び悩む一方、特定のスポットへの集中は続いている

東京都の宿泊税、実は既に条例可決済み

東京都の宿泊税は「見直しを検討中」の段階をとうに過ぎ、既に条例が可決されている。現行制度(2002年10月〜)は定額制で、1泊1人1万円未満は非課税、1万〜1.5万円未満は100円、1.5万円以上は200円という区分だった。

2026年3月27日、都議会は新制度を可決した。2027年4月1日の施行に向けて、税率は定率制3%(宿泊料金×3%)に変更され、免税ラインは「1泊1万円未満」から「1泊13,000円未満」に引き上げられる。さらに簡易宿所・民泊(新法民泊/特区民泊)も新たに課税対象に加わる。同年6月30日には総務大臣の同意も得ており、この変更は既に確定事項だ。

ホテル業界からは異論も出ている。ある業界関係者は「都内観光業はコロナ禍のダメージから回復しきっておらず、債務超過を解消できていない事業者が多い」として定額制の維持を求めた。日本ホテル協会も、定率制は「取りやすいところから取る」性格を強めると指摘し、「全ての宿泊客が消費額に関わらず地域に負荷をかけている」という実態を踏まえ、広く薄く課税する定額制の方が公平だと主張している。

浅草住民「耳栓をして寝ている」

台東区への外国人観光客数は2022年の47万人から2023年には442万人へ急増した。区が実施した住民アンケートでは、課題の1位が「ゴミのポイ捨て」(81.0%)、2位が「観光客向けの店が増え、昔ながらの店が減った」(77.6%)という結果になっている。

台東区北部に住む65歳の会社顧問男性は東京新聞の取材にこう語った。「自宅前に捨てられたたばこの吸い殻や空き缶の掃除から始まる」日々が2〜3年続き、「午前3時ごろまで騒ぐ団体客の声が漏れるため、耳栓をして寝ている」。民泊への要望として「認可制にしてほしい。行政はごみを捨てる場所や灰皿があるか、きちんと機能しているか確認した上で、できていなかったら指導して」と訴えている。区観光課の担当者も「最近はオーバーツーリズムに近い状況になってきている」と認めた。

対策として浅草観光連盟は2025年3月、多言語デジタルマップ「奥浅草ガイドマップ」の配信を開始し、周辺エリアへの回遊を促して混雑を分散させようとしている。商店街では毎日のゴミ拾いや、食べ歩きではなく店内飲食を呼びかける取り組みも続く。

踏切と鉄道のイメージ
SNSで拡散した特定のスポットに観光客が殺到する現象が各地で問題化している

スラムダンク踏切と富士山ローソン

SNS発の一極集中を象徴する事例が鎌倉高校前駅の踏切だ。アニメ版『スラムダンク』のオープニングに描かれた構図として中国を中心に拡散し、外国人客が殺到した。地元では、ゴミのポイ捃て、民家への侵入、公園での全裸行為、水道での体洗い、民家敷地内での排泄、車道への飛び出しといった深刻なトラブルが報告されており、住民は「我慢するしかない」と話す。観光庁はこの状況を受け、鎌倉・藤沢を「先駆モデル地域」に採択し、撮影マナー違反を抑制するためのカメラ設置などの対策を進めている。

富士河口湖町では、駅近くのローソン店舗の背後に富士山が見える構図がSNSで拡散し、早朝から深夜まで外国人客が殺到した。危険な道路横断や車道への飛び出し、障害者・高齢者用スペースの占拠といった問題を受け、地元の要請で店舗前に目隠しシート(黒い幕)が設置される事態にまで発展している。

渋谷区も対応に動いている。2019年制定の条例を強化し、2024年10月からは路上飲酒を通年で午後6時から翌午前5時まで禁止した。2025年のハロウィン対策では警備員125人・区職員90人を動員し、ハチ公像を封鎖、一部店舗で酒類販売を制限。区長は「迷惑ハロウィーン」を掲げ、渋谷を"祭りの場"ではなく"避けてほしい場所"として演出する方針に転換している。

富士山は入山料4,000円・1日4,000人上限

東京以外の観光地では、より踏み込んだ制度が既に動いている。富士山では2026年シーズン、吉田ルート(山梨県)・富士宮/御殿場/須走ルート(静岡県)ともに1人1回4,000円の通行料が課される。山梨側では午後2時から翌午前3時までゲートを閉鎖し、1日あたり登山者数が4,000人に達した時点でもゲートを閉鎖する仕組みが導入された(静岡側は人数上限なし)。弾丸登山対策として、事前のeラーニングによるマナー学習の修了が必須化され、深夜入山時には山小屋予約が求められる。

観光庁の「先駆モデル地域」20地域

観光庁は2023年10月18日、観光立国推進閣僚会議で「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定し、京都・富士山吉田口・西表島・鎌倉・藤沢など20の「先駆モデル地域」を選定して支援している。鎌倉・藤沢はスラムダンク踏切の混雑対策として、撮影マナー違反を抑制するためのカメラ設置などに取り組んでいる。国レベルの枠組みの中で、地域ごとに異なる混雑の実態に応じた対策が試行されている段階だ。

京都・大阪との宿泊税比較

京都市は2026年3月1日、宿泊税を定額制のまま5段階に細分化した。6,000円未満は200円で据え置く一方、100,000円以上は10,000円という自治体宿泊税として日本最高額の上限を設定し、高価格帯に負担を寄せる「応能負担」型の設計にした。大阪府も2025年9月1日に改定し、5,000円未満は非課税のまま、5,000〜15,000円未満を200円、20,000円以上を500円とする定額制を維持している。

つまり京都・大阪が定額制を維持したまま高額帯の負担を強化したのに対し、東京だけが定率制3%へと制度の骨格そのものを転換した。この違いが、今後どちらの方式がより持続可能な観光財源のモデルになるかという議論の焦点になっている。

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よくある質問

訪日外国人が4,000万人を超えたのはいつですか?
2025年に4,268万3,600人を記録し、既に4,000万人を超えています。2026年は前半、前年割れで推移しています。
東京都の宿泊税はいつから変わりますか?
2026年3月27日に都議会で条例が可決され、2027年4月1日から定率制3%(免税ラインは1泊13,000円未満)に変わります。
浅草ではどんな問題が起きていますか?
ゴミのポイ捨てや深夜の騒音が住民から指摘されており、区も「オーバーツーリズムに近い状況」と認めています。
Simple Tokyoオーバーツーリズム宿泊税

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