神保町の古書店主が語る「本が売れなくなった時代」の生き方 | NETOKYO
神保町の古書店主が語る「本が売れなくなった時代」の生き方
Amazon・電子書籍・SNS——「本が売れない時代」に神保町で古書店を続ける山田文雄さん(58歳)。70年続く父の店を引き継ぎ、今も毎朝8時に店を開ける理由。そして「本屋がなくなった街に何が起きるか」という問い。
「本が売れない」時代に本屋を続けること
朝8時、神保町の路地。山田文雄さん(58歳)は黙々とシャッターを上げる。店内は天井まで本が積み上がっている。哲学書・歴史書・美術書——専門書を中心に、約3万冊が棚に並ぶ。
「売上は20年前の三分の一です」と山田さんは事務的に言う。「でも店を閉める理由がない。父が70年間開け続けた店を、私が閉めることはできない」。その言葉に、感傷はない。ただ静かな確信がある。
古書店主が見てきた「本と人の関係の変化」
山田さんが店を継いだ30年前、神保町には約200軒の古書店があった。今は約130軒。この30年で70軒が消えた計算だ。しかし同時に、新しい客層も生まれている。
「インターネットで調べて、うちに来る若い人が増えました。『この本はここにしかない』と知って来る。本を探す努力ができる人は、本の価値が分かる人です。そういう客が来てくれる限り、続けられる」。
- 専門性の深化:ジャンルを絞り込み、日本で一番の専門性を持つことで「そこにしかない」を実現
- 目利きの価値:どの本が「価値ある本」かを判断できる専門家としての眼力が最大の競争優位
- 場所の価値:神保町というエコシステム——古書店・出版社・大学が集まる「知の集積地」の一員であること
- SNSとの共存:珍しい本・貴重な本の写真をInstagramに投稿し、全国・全世界から問い合わせが来る
「本屋がなくなった街に何が起きるか」
山田さんが最も危惧するのは、自分の店ではなく「本屋がなくなった後の世界」だ。「本屋がなくなると、人は自分が読みたいものしか読まなくなります。Amazon・アルゴリズムが『あなたに合いそうな本』を提案する。でも人間の知性は、『まったく想像していなかった本』との出会いで育つんです」。
古書店のカウンターをはさんだ「本との偶然の出会い」——それは検索エンジンが提供できない体験だ。棚を眺めていたら目に入った一冊が、人生を変えることがある。山田さんはその「偶然性の価値」を守る場所として、毎朝8時にシャッターを上げる。
本屋は「知らないことを知る場所」だ。自分が何を読みたいか分かっている人は、本屋に来なくてもいい。でも「何か面白いものに出会いたい」と思っている人が来る場所を、誰かが守らなければいけない。
— 山田文雄さん(神保町・古書店主)山田さんが守っているのは「本」ではなく「偶然の知の出会い」だ。アルゴリズムが最適化するほど、人間は「予期せぬ発見」から遠ざかる。神保町の古書店は、その「偶然性」を今も守り続ける砦だ。東京に来たら、神保町の路地を歩いてほしい。そして気になった背表紙の本を、迷わず手に取ってほしい。
