「お風呂に入れない」父親たちのリアル

「お風呂に入れない父親」たちのリアル — NETOKYO Tokyo Stories
疲れた男性、夜の窓辺
Tokyo Stories

「お風呂に入れない」
父親たちのリアル

深夜帰宅、子どもとすれ違う毎日。子育て世代の父親が直面する「小さくて深い孤独」。

📅 2026.05.26 ✍️ NETOKYO Editorial ⏱ 約8分で読めます 🏷 Tokyo Stories

子どもが寝静まった深夜0時、玄関を開けると電気が消えている。ダイニングのテーブルには食事がラップされている。シャワーを浴びたい、でも物音を立てたくない——。これが、東京で働く子育て世代の父親の「普通の夜」だ。「お風呂に入れない」というのは、時間の話だけじゃない。

SECTION 01
統計が語る、父親の「見えない壁」

厚生労働省のデータによれば、子育て世代である30代の男性正社員の7割以上が週43時間以上働いており、他の年齢層と比較しても突出して高い水準にある。さらに、共働き家庭における平日の帰宅時間を見ると、妻が週35時間以上就業している場合でも、夫の約4分の1が21時以降に帰宅している。

7割+ 30代男性正社員のうち
週43時間以上勤務
1/4 の父親 が平日21時以降帰宅
(共働き家庭)
41分 日本男性の1日あたり
家事・育児時間(OECD最下位水準)

OECDの比較調査では、日本男性の1日あたりの家事・育児にあたる無償労働時間は主要先進国の中で最下位水準にある。これは意欲の問題ではなく、有償労働時間が世界でも突出して長いことと表裏一体だ。「家に帰ったら子どもが寝ていた」「お風呂の時間に間に合わない」——それは構造的な問題である。

DATA POINT

エコチル調査(43,159組の夫婦を対象)では、父親の労働時間が長いほど「お風呂に入れる」「寝かしつける」などの育児行動の頻度が有意に低下することが示されている。長時間労働は父親の育児参加を構造的に阻害している。

SECTION 02
「今日も間に合わなかった」
ある父親の一日

夜の東京、オフィス街
PHOTO — Unsplash / Tokyo night district

東京都内に勤める会社員・田中さん(仮名・36歳)は、2歳の息子を持つ父親だ。妻もフルタイムで働いており、平日の子どもとのお風呂は妻が担当している。「残業して帰ると22時を過ぎることが多い。子どもはもう寝ていて、お風呂の準備をした妻はぐったりしている。僕は静かにシャワーを浴びて、ひとりで残り物を食べる」と話す。

田中さんが子どもと一緒に風呂に入れるのは、週末の2日だけ。「息子が『パパとお風呂!』ってなるのが嬉しくて。でも、その顔を見るたびに平日のことが申し訳なくなる」。

深夜に帰ってシャワー浴びながら、子どもの声が聞こえない浴室で、自分は今日も何もできなかったな、って思う。お風呂って、ただ体を洗う場所じゃないんですよ。

— 子育て中の父親(30代・東京都在住)のコメントより構成

SECTION 03
「ワンオペのしんどさ」と
「不在の父親の孤独」

この問題を語るとき、どうしても母親視点のみが前面に出がちだ。「ワンオペ育児」の言葉は広まり、母親の苦労は可視化されてきた。一方で、父親側の孤独や疎外感はほとんど語られてこなかった。

2025年の内閣府調査によると、孤独感が「ある」と答えた人の割合は全体で4割弱。30代がもっとも高く43%に達しており、まさに子育て世代の中心層が孤独を抱えていることが浮かび上がる。母親だけでなく、深夜まで仕事をして家族と時間を共有できない父親たちもまた、その数字の中にいる。

VOICE — SNSより

  • 「帰宅してシャワー浴びても、誰とも話していない。仕事して、食べて、寝る。父親なのに家族の一員じゃない感じがする」
  • 「子どもが寝てから帰ると、妻も疲弊してて話もできない。僕がいなくても回ってるんだなってわかるのがつらい」
  • 「週末にまとめて子どもと関わろうとすると、子どもがなついてなくてショックだった。毎日の積み重ねがないと、関係は作れない」

SECTION 04
父親の一日:
「お風呂タイム」が映すもの

7:00
出勤 — 子どもはまだ寝ている。起こさないようにそっと家を出る。
18:00
保育園のお迎え時間 — 妻が対応。父親はまだ仕事中。
19:30
子どものお風呂タイム — 妻がひとりで入れる。湯上がりの子どもを抱っこして着替えさせ、寝かしつけへ。
21:30
子ども就寝 — 妻もぐったり。この時間でも父親はまだ帰っていない。
22:30+
父親帰宅 — シャワーを浴びる。ひとりで。残り物を食べる。翌朝も子どもは寝ている。

このタイムラインは、特別なケースではない。日本の都市部で働く子育て世代の父親にとって、これが「普通の平日」だ。お風呂という日常の一場面が、家族との断絶を象徴している。

SECTION 05
変わりつつある空気、
変わらない構造

男性育休の取得率は年々上昇しており、制度改正や社会の意識変化によって少しずつ変わりつつある。6歳未満の子どもを持つ世帯では、父親の家事・育児時間は過去5年で31分増加し、1時間54分となった。増えてはいる——しかし、妻は7時間28分。差は歴然としている。

「イクメン」という言葉が普及して10年以上が経つが、長時間労働という根本的な構造が変わらない限り、お風呂に間に合えない父親は減らない。育休制度がいくら充実しても、日常の「平日夜」を変えなければ、家族の時間は取り戻せない。

KEY FACTS

  • 6歳未満の子を持つ父親の家事・育児時間:1日1時間54分(2021年・前回比+31分)
  • 同じ条件の母親の家事・育児時間:1日7時間28分
  • 日本男性の有償労働時間:OECD主要国中、世界最長水準
  • 子育て家庭の6割が孤独感を経験(コズレ調査 2025年)

NETOKYO の視点

「お風呂に入れない」という言葉には、体が清潔でないという意味だけでなく、家族と同じ時間軸を生きられていないという感覚が含まれている。子どもが眠るまでの数時間——夕飯、お風呂、絵本、おやすみ——その時間こそが「家族の文化」を形成するゴールデンアワーだ。そこにいられない父親は、稼ぎ手という役割は果たしていても、家族の日常から少しずつ取り残されていく。

東京という都市で働くことは、豊かさと引き換えに何かを手放すことを意味する場合がある。それが「子どもとのお風呂」だとしたら、私たちはそれを「仕方がない」で終わらせていいのだろうか。制度でも意識でもなく、日々の夜の時間——その「帰れる社会」をどう作るか。これはビジネスの問題でも政策の問題でもなく、Tokyo という都市の文化の問題だ。

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